第一回Engage! 読書会の結果
Engage! 読書会では、アンソロジーから1つみんなの評価が高い作品を選ぼう! という試みをしています。
今回はSFというジャンルで。『神林長平トリビュート』を使いました。
結果
第一回Engage! 読書会の結果、課題本『神林長平トリビュート』のなかで最も面白かったと評価された
そして、最も面白くなかったと評価された、
海猫沢めろん「言葉使い師」をavoid! 賞作品とします。以下、選評です。
評価対象
桜坂洋「狐と踊れ」
辻村深月「七胴落とし」
仁木稔「完璧な涙」
森深紅「魂の駆動体」
元長柾木「我語りて世界あり」
海猫沢めろん「言葉使い師」
選評結果
(10~9点を◎、8~7点を○、6~4点を△、3~2点を▲、1~0点を×)
・桜坂洋「狐と踊れ」
A氏 △ 胃の戦闘描写はエンタメと表現してよさそう。リズムもあり読みやすい。けれどそれだけ。中身はない。
B氏 ○ 胃(主人公)が若者の写しのようだった。支配と配下の関係の中で、配下である胃が実は支配側の人間を支配する、という逆転がありうるという発想は面白い。
C氏 △ 胃の若者の無鉄砲さが印象に残った。
・辻村深月「七胴落とし」
A氏 ○ 思春期の葛藤を描く中で、日常と非日常の移り変わりのリズムが良い。
B氏 ▲ この作品から得られるものが無かった。
C氏 ◎ 猫が登場しているのが個人的にツボ。ほのぼのとした雰囲気の中、子どもである主人公の特殊性が台詞などにも表れている。
・仁木稔「完璧な涙」
A氏 × 原作を読んだ上でないと、何も理解できない。原作がデウスエクスマキナになってる。二次創作での単独作品としては認めがたい。
B氏 ○ 日常から非日常への移り変わりの緊張、どんでん返しを評価したい。
C氏 △ 本編の裏側として、男の切なさを描いているように思う。
・円城塔「死して咲く花、実のある夢」
A氏 ◎ おそらくブラックホールの情報に関するパラドックスが元ネタではないか。シュレーディンガーの猫を上手く使ったSF。さしすせそなどの唐突なユーモアが秀逸。
B氏 ○ 理解できる部分が少し足りない。ただ、学び取れるものが多かった。
C氏 × 分からなかった。また、この作品での会話は実験中に登場人物がすることがなくてだらだら話しているだけなのでは。
・森深紅「魂の駆動体」
A氏 △ 車について知識がないとのめり込めないだろうが、それを踏まえた上での世代間のお話と考えれば面白いテーマ。
B氏 × 面白さを見いだせなかった。
C氏 △ 最後の急展開がよくないと思うが、そこまでは面白かった。
・虚淵玄「敵は海賊」
A氏 ○ 地の文が続く部分ではリズムに欠ける。平坦でダイナミズムに欠ける。しかしテーマは良い。
B氏 ◎ 平坦だからこそ緻密で、価値観を変えられる部分がある。
C氏 ○ 存在意義を問うのがロジック固めで面白い。主人公が女性形を取ったのは、《彼》に恋をするからなのか。
・元長柾木「我語りて世界あり」
A氏 △ 主人公の立ち位置が斬新。「公共」の対義語として「快楽」を選んでるのだろうか。
B氏 ○ 話は面白いが、主人公側のような立場は生理的に受け付けにくい。
C氏 △ 主人公が好きになれなかった。敵がどんなものなのか読み取りにくい。
・海猫沢めろん「言葉使い師」
A氏 × どう読めばよいか分からないのであるが、二回読んで何の手がかりも得られなかったので選評不可。
B氏 × おそらく伝えることのはずなのに、人を傷つけたりしてしまう言葉の本質の制限を描いているのでは。
C氏 ▲ 分からなかった。詩に近いと考えれば、言葉回しが面白いのが加点の理由。
番外(実はEngage! 賞受賞作より点数が高い)
・神林長平「序文――敬意と挑戦」
A氏 ◎ 〈お仕合わせなやつ〉という揶揄について。生きる上での力強いエールを随所から感じる。死は普遍だが生は普遍でない。
B氏 ◎ 「破格」である生はなんでもよい、という表現が良かった。
C氏 ○ 冒頭の「死語の世界」を勘違いした。